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2021 12
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足尾銅山を見る ―2021/11/12-13見学研修の記録―

産業遺産は現物に接してはじめてそのすごさ、奥深さがわかる。

11月12-13の両日、世界遺産登録をめざす足尾銅山遺産(日光市)を見学した。ここは明治10181877)年から古河市兵衛が開発に取り組み、洋式技術を進んで導入・改良し日本の近代化の先駆けとなったところである。現地解説は足尾で長年にわたり銅山の記録・保存・研究に携わってきた小野崎敏氏。

 [1日目] 中核となる生産・処理工程を見学する。まず本山製錬場跡(ほんざんせいれんばあと)でベッセマー転炉、大煙突、煙路跡(えんろあと)、本山貨物駅(ほんざんかもつえき)・原料集積場などを見て往時の盛況を感じる。その後本山坑跡、動力所跡などを訪ね、あわせて最古クラスの鉄橋古河橋やドコーヴィル(仏語Decauville)軽便鉄道(けいべんてつどう)の路盤跡(ろばんあと)、さらに砂防ダム付近では周辺の環境回復への努力・成果を実見した。

次いで通洞選鉱所跡(つうどうせんこうしょあと)に入り斜面に階段状に配置されたボールミル、浮遊選鉱槽(ふゆうせんこうそう)などの一連の選鉱工程(せんこうこうてい)を本邦(ほんぽう)で唯一現存する実物設備により体感できた。

その後、中才鉱山(なかざいこうざん)住宅群とシックナー(選鉱処理水槽跡)を見た後、通洞(つうどう)の古河足尾歴史館に移り足尾鉱山の歴史とその活動の詳細について工夫をこらした展示を通じて学んだ。また動態保存(どうたいほぞん)のガソリンカー(軽便鉄道)に実乗(じつじょう)し、整備ヤードではその保存の苦労を聴いた。そして小滝地区(こたきちく)では小滝坑口跡(こたきこうぐちあと)、小滝製錬所跡などを見て日帰り組は解散、一部有志は小野崎氏宅に合宿し討議・質疑応答は深更(しんこう)に及(およ)んだ。

 [2日目] 鉱山は地域の人的・物的資源を総動員する幅広い産業システムである。有志は引き続き各種の遺産について見学した。最初は旧本山(きゅうほんざん)小学校である。古河鉱業が地域の福利・厚生のため積極的に整備したもの戦後改装で鉱滓(こうさい)による造成地(ぞうせいち)に建設整備された瀟洒(しょうしゃ)な講堂や3階建てRC建築群を見た。

隣接する間藤浄水場跡(まとうじょうすいじょうあと)では広大な沈殿槽(ちんでんそう)を階段状に配置し、当時欧米でも手探りの浄水技術状況下で本山抗(ほんざんこう)からの強酸性排水の処理石灰乳(せっかいにゅう)で中和沈殿して流下を行っていた、という。 

さらに日本初の水力発電所として建設された間藤水力発電所跡では、発電所煉瓦基壇(はつでんしょれんがきだん)と水路鉄管(すいろてっかん)、松木からの高架給水路跡(こうかきゅうすいろあと)も見学できた。

[感想]   専門家的確な説明により足尾銅山の全体像が見えてきた。鉱山といえば荒っぽい産業風景と見られがちだ。しかし足尾は、鉱石原料(こうせきげんりょう)の成分比率や精錬(せいれん)での収量の0.01%や1%の差がモノを言う近代的先進産業の側面があり、また掘削(くっさく)の削岩機(さくがんき)から輸送用電車、電力の生産から排水処理・環境復元、地域・人員資源の総合利用までが求められ多面的な近代化を促進する側面をもっていた。まさに足尾は日本の産業社会近代化の壮大な「総合実験遺産」であったのである。産業遺産の実像を理解する貴重な経験であった。[吉田 修]

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