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2022 02
14

『私の見た世界遺産⑤三角西港』 事務局・NY

三角西港(明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業)2015年世界文化遺産・日本

23の構成資産からなる明治日本の産業革命遺産の中でも、知名度が高いのはやはり軍艦島や、グラバー邸ではないでしょうか。観光地になっており、写真映えもします。逆に、23も資産があると、正直なところ知名度が低く、地味なイメージの構成資産もあります。今回紹介したい三角西港も、個人的にはそのうちの一つだと思います。

私が訪ねたのは2019年の8月、23の構成資産の約半分を巡る出張でした。真夏の暑さの中、熊本駅から全く列車が通らない単線の線路を横目に車を走らせ、着いた山の中。山の中だと思っていたのに、そこは海であり、港でした。波もほぼなく、キラキラと輝く静かな水面。その先に見える天草の山々と鉄橋。海なし県で育った私は、風光明媚とはまさにこのことかと感じました。うるさいほどの蝉の声もその景色にマッチしていて、石積みの港を歩くと初めて来た場所なのにノスタルジーを覚えました。かの小泉八雲もここを訪れ、その様子を浦島太郎の寓話になぞらえて紀行文『THE DREAM OF A SUMMER DAY(夏の日の夢)』を記しています。

港には明治・大正時代に建てられた建物が今も残っており、八雲が宿泊したとされる旅館浦島屋も復元されています。この地域一帯が当時のまま時が止まっているような錯覚に襲われ、ふと帰りたくないな、と思ってしまったのは “夏の日の夢”のようです。夏という季節に郷愁を感じるのは日本人だけかと思っていましたが、もしかしたら八雲も同じような思いに駆られ文章を書いたのかもしれません。

三角西港は歴史やいわれを知らなくとも、見どころがあり、記憶に残る場所だと思います。ぜひ多くの人に訪れていただきたい場所です。

補足になりますが、長い旅のお供に猫のぬいぐるみを連れていき、各地の景色とともに写真を撮りました。SNS等で美しい風景写真がすぐに見られる時代だからこそ、ぬいぐるみが映った写真は「唯一無二の思い出」になりました。(おわり)

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